ヨルノサンポ団の日記

演劇集団のゆるい日記!twitter(@yorunosanpo0315)も!

〝麻黄湯はインフルエンザに効くのか〝(医学のつぶやき37 るーにー)

このブログを書くのはいつぶりだろうか。

こうやって人はサボるのだな、という典型的なサボり方をしてしまった。

所属するヨルノサンポ団はどうやら12月に芝居を行うらしい。どうやら各々準備に勤しんでいるらしい。この間、主催は脚本執筆に追われて顔に死相が滲み出ていた。ゆっくりと寝てほしいところだ。

かく言う私は、コロナの第3波の影響もあり、演劇からは1歩置いた立場に身を置いている。となると、ブログくらい書けよという圧力が生じるわけである。

専門の医学の内容に関してブログを書くというのは案外難しいものである。特に私が専門としているものはかなりニッチな領域であり、劇団のブログに記すには相応しくない気がしている。そもそも、別でやれと言われればその通りなのだが。劇団員にわずかでも力になりたく思い、このように筆をとった次第なのだ。


本年は大分様相が異なっているが、昨年であれば若者の発熱といえば、インフルエンザであった。鼻に棒を突っ込み、グリグリとして、診断をつけるという簡単なお仕事である。

「インフルエンザですね。発症してから5日間は最低出席停止になります。もししばらく熱が引かなければ、解熱してから2日間も必ず休んでください。お若いですし、寝てれば治りますよ!それではお大事に!」

「、、、、、、薬は???」

おお、神よ。このくだりを何度こなしたことだろうか。日本人ほど薬と点滴が好きな人種はいないだろう。点滴なんてただの水だぞ。貴様の口は何のためについているのだ。水くらい飲め飲め。何がビタミン剤の点滴だ。ビタミンくらい飯を食え飯を食え。


薬はと聞かれてこちらが取る対応は2つだ。

①「ああ、失礼しました。ノイラミニダーゼ阻害薬(いわゆるタミ◯ル)と熱冷まし出しておきますね。痰がほんのちょっと切れやすくなる薬と、咳が気持ち止まりやすくなる薬と、ビタミン剤出しておきますね。それではお大事に!!!」

②「ノイラミニダーゼ阻害薬は飲んだとしても、熱が冷めるまでの時間は1-2日くらいしか早くならないんですよ。それに、ほんの少しだけですけど、来年インフルエンザにかかる可能性が高くなりますよ。お金も5日間の処方で1600円ですね。3割負担なので500円ほどかかりますよ。お兄さんはお若いし、普段頑張りすぎているからゆっくり休んでみてはどうですか。それから、熱冷ましですけど、、、、、、、(以下略)」

日本の財政のことや体のことを考えるならば②の方が良いことはわかっているが、長い時間を割いてそれでも嫌な顔をされる可能性もあり、かつ疲れていたりすると①の対応をする。


決してノイラミニダーゼ阻害薬(いわゆるリレ◯ザ)を飲むなといっているわけではない。人によっては、重症化するリスク(致死率は0.1%程度である。この知識を持って下がっていくコロナの致死率を眺めていると興味深い)を抱えていることもある。ただ、誰でも彼でも使うかというとそれもまた疑問だ。


と、我々も結構悩む。特に今年はもっと悩むだろう。

 

ところで、1人ユニークな友人がおり、彼は③の発言をする。

「じゃあ、インフルエンザに効く漢方出しておきますね」

実は、インフルエンザには保険が通っている漢方がある。麻黄湯柴胡桂枝湯、竹茹湯の3つである。漢方がインフルエンザに効くのかという声が聞こえてきそうだ。前置きが長くなってしまったが今回はインフルエンザに効く可能性があるとされている漢方として麻黄湯を紹介していこうと思う。


この麻黄湯という薬は「傷寒論」という伝統中国医学の古典に以下のように記されている。


『太陽病、頭痛、発熱、身疼、腰痛、骨折疼痛、悪風、汗無くして喘する者は、麻黄湯之を主る』


この書は後漢末期から三国時代にかけ張仲景(150-219年)が変遷したものである。麻黄湯は麻黄、杏仁、桂皮、甘草の生薬からなる。やや専門的な話になるが麻黄にはエフェドリンとプソイドエフェドリンが含まれるとされ、前者が解熱、鎮咳、気管支筋弛緩などの作用があり、後者に抗炎症作用がある。


この薬は、高熱があるが汗が出ないといったものに使う。ここに筋肉痛や喘鳴などがあればなお良い適応であろう。インフルエンザの初期などに良い適応とも言える。とはいえ、漢方がインフルエンザに効くか眉唾の部分もあるであろう。それに対する近年の研究を以下に記す。


2007年にkuboらが行った研究では、インフルエンザ検査陽性の小児に対して①オセルタミビル(いわゆるタミ◯ル)単独投与②オセルタミビルと麻黄湯の併用③麻黄湯単独投与(中には検査陰性だがインフルエンザを歌がれたものも含む)の3郡に分け、解析を行った。後日の血液検査でインフルエンザA型感染を確認した上で、解析したところ、①は18例、②は14例、③は17例が対象となった。結果として、発熱時間は①に比べて②は有意に短くなった。また、解析の仕方にやや問題はある(ランダム化されていない)ものの、③も①より短いという結果となった。


2012年にNabeshimaらが行った研究では、20-64歳の成人を10人ずつ程度に分け、オセルタミビル(タミ◯ル)、ザナミビル(リレ◯ザ)、麻黄湯を投与する郡に分けたところ、発熱期間の平均は46時間、27時間、29時間という結果となった。


これらの研究結果から麻黄湯はインフルエンザの発熱期間を短縮する可能性があるのだ。ただし、あくまで可能性にとどまる。上記の研究はいずれも10人程度の比較であり、より多くの人数で研究をした際に同様の結果となるかは不明である。ただし、何れにせよ、値段のことや副作用のことなどを考えると選択肢に加えたくなる。何より、病院に行かずに購入が可能である。ただし、少し強い薬なので、虚弱体質の人、例えば老人、などには向かない薬である。


と、実は友人の対応は理にかなっているのだが、そんな彼の診察を受けた患者は皆首をひねって帰っていくのであった。


しばらく、このように漢方についての記事を毎週更新できたらいいなという希望を持っている。無理はしない。

 

(このブログはいかなる団体とも関係がなく、上記は個人的見解を多分に含むことをお許しください。)