ヨルノサンポ団の日記

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"二日酔いに効くと噂の五苓散"(医学のつぶやき38 るーにー)

今年は行くことが出来ていないが、昨年はよく飲みに行く先輩がいた。この先輩は本当によく飲む人であった。一方の私はフラッシャーであり、俗にいうところの下戸である。酒を飲むと顔がすぐに真っ赤になってしまうのだ。

 

こういう人間は遺伝的にエタノールからできるアルデヒドという毒素を分解出来ないため顔が赤くなる。そしてこの毒素は吸収された後に唾液に出るという循環を繰り返し食道が痛めつけられていく。そう、こういう人間が酒を飲むと食道癌にまっしぐらということが分かっている。

 

そのため普段は飲酒をせず、飲むとしても少量となってしまう。忘年会などで大量に飲酒をすることがあると、頭がとんでもなく痛くなり、そのまま寝てしまう。

 

そんな先輩が必ず飲み会の前に飲んでいた漢方薬があった。それが本日紹介する五苓散である。

 

この五苓散は、前回紹介した麻黄湯と同じく古くは「傷寒論」に記載がある。非常に多くの記載があるため、そのまま書き記すことはしない。その他唐の時代、「備急千金要方」や宋の時代「増広太平恵民和剤局方」など多数の書に古くから登場している。

 

伝統的には“水毒”と呼ばれる状態に使用され、西洋医学でいうところの体液や細胞内外の水代謝を変動させる薬剤である。古典的考え方では、口渇と尿量減少がある時に用いる。また、

頭痛、嘔吐、下痢、発熱などにも使用可能である。

 

ここからは専門的な話になるが、上記の作用にはアクアポリン(AQP)という細胞内外の水を輸送する蛋白質が関与している可能性が高いと言われている。なお、このアクアポリンを発見したpeter agreはノーベル化学賞を2003年に受賞している。

このAQPには様々なタイプが詳細に見つかっている。そのうち。AQP1、2、3は

腎臓に、AQP4は脳に、AQP5は唾液腺などに発現していることがわかっている。例えば、AQP1、2、3を阻害すると本来腎臓がこれらの蛋白を介して吸収するはずであった水が流れ出ていくことになり、尿量が増えることになる。あるいは、AQP5を阻害すると唾液や汗などの分泌が落ちることとなる。そして、五苓散はAQPの3-5を阻害することが分かっている。どうやら五苓散の成分の中に含まれるマンガンが関わっているのではないかとも言われているようだ。

 

しかし、そうすると色々なことが納得いくのである。口渇に対してはAQP5を介して、尿量減少に対してはAQP3を介して”水毒”の状態を解除しているといえよう(難治性の心不全で体に水が貯まった高齢者に五苓散が効いたという報告もある)。

 

では、なぜ2日酔に効くのだろうか。ここからは筆者自身の考察である。

まず、五苓散を飲まなくともお酒を飲むと人は薄い尿が沢山出ると思う。これは、酒という大量の水分を飲むことによって体のイオン濃度が下がってしまうことに対する体の防衛反応と思われる。本来、人間の体は塩水で出来ており、その濃度が水を大量に摂取すると濃度が下がってしまう。それに対して腎臓は強制的に薄い水を出して飲んだ水を外に逃がしていく。

これが破綻すると当然人の体には負荷がかかっていく。例えば、脳の細胞の中に水がたまる(ある程度正確に表現するのであれば、血液中の塩分濃度が下がり、細胞内と血液の間に濃度差ができる。そのため、半透膜である細胞膜を水が細胞内へと流れ込む)。当然、水が貯まった細胞は膨れ上がる。脳という場所は頭蓋骨で細胞が存在できる空間の大きさに上限があるために、膨れ上がった細胞は窮屈な状態となる。この結果頭痛や吐き気がしてくるのではないだろうか。(一般的な説はアルデヒド濃度上昇に伴う延髄への刺激が嘔吐を引き起こすというものです。上記は個人的なこじつけです)とすると、五苓散でAQP4を阻害することも脳の細胞が膨れ上がらないようにしていると考えても良い気がしてくるのである。

 

何れにせよ、酒という水分を五苓散が排泄を手伝っているという感覚で間違っていないのではないだろうか。

 

これを書いていて思い出したが、小学生の時に学校の先生が水を大量に飲み続ける大会に昔出場したことがあると言っていたことを思い出した。ただ、この大会で2位の人が亡くなったようである。水だって闇雲に飲めばいいというものではないのだ。

 

なお、発熱等については含まれている桂皮が解熱・鎮痛作用を持っているためこちらの関連も考える。

 

よし今後は大量に飲酒する時があれば五苓散を使ってからにしようと目論んでいたものの、今年は忘年会など無いようで、はるか先になるであろう。そもそも飲まない方がいい体なのだけど。トホホホホホ。