ヨルノサンポ団の日記

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"風邪に抗菌薬は必要か2"(医療のつぶやき22 るーにー)

さて、昨日は風邪に抗菌薬は効かないというお話をした。では、なぜ抗菌薬が処方されるのか。では、なぜ抗菌薬を処方するべきではないのかについて今日は語ろうと思う。

 

まず、医師が「風邪です」というのと、患者さんが「風邪です」というのは全くニュアンスが違うのだ。

 

医師の言う風邪とは、ウイルスによる感染症のことを指すのに対して、患者さんの風邪ですは「熱があります」という意味であったり、「体調が悪いです」という意味であったり、と様々である。そうすると、患者さんの「風邪です」は必ずしもウイルスによる感染症を指さない。勿論大部分はウイルスによるもので、様子を見ていたら自然と良くなるものであろう。しかし、その中に細菌によって引き起こされる重篤なものや、そもそも感染症ではないものが混ざっている可能性が十二分にある。そして、これらを医師が100発100中で分類するのは不可能に近いのだ。

 

そうすると、一昔前であれば、「とりあえず抗菌薬を出しておいて、ウイルスなら自然と治るし、仮に細菌でも抗菌薬で大丈夫」となるわけだ。昔はこれでよかった。

 

ところが、最近はそうも問屋がおろさなくなってきたのだ。最近のコロナウイルスを見ていたら分かるかもしれないが、ウイルスというのは変異を起こす。これは、細菌についても同様で、抗菌薬を使うと一定の確率で変異を起こして抗菌薬が効かない細菌が生まれてくるのだ。前回の記事で出したペニシリンという薬は現代の医療現場ではそこまで使われない。それは、ペニシリンが効かない細菌が増えたためでもある。こういった細菌のことを薬剤耐性菌と呼ぶ。そして、このままいけば、2050年には年間1000万人が薬剤耐性菌で亡くなる計算であり、これは癌で亡くなる患者よりも多い計算なのだ。昨今のコロナ事情を知っている皆様ならばこれがどれほどとんでもない数字で、どれほど感染症が恐ろしいか分かると思う。

 

決して日本政府も手招いているわけではなく、薬剤耐性対策アクションプランを2016年に閣議決定しているし、抗微生物適正使用の手引きというものも2017年に出している。そして、その手引きには、「感冒に対して、抗菌薬投与を行わないことを推奨する」という風になっているのだ。

 

では、なぜ抗菌薬投与が続くのだろうか。これには、患者・医師双方の問題が当然ある。

医師の中にはこういった上記の事情を知らないものもいるであろう。また、日本の患者というものは病院に行けば必ず薬が出ると思っているし、薬を飲めば病気が治ると考えている節がある。先に言っておこう、医学的な意味での風邪の一番の薬は休息だ。患者から「あの病院は薬も出してくれない」と言われてしまえば、客足が遠のくという事情もあるわけだ。

 

医師は、風邪を見抜く術や抗菌薬がいらない旨を説明する義務が当然あるが、同時にこのブログを読んでいる方々にはこういった問題が差し迫っていることを少なくとも頭の中に入れておいていただければと思う。

 

次回は、数字から風邪薬などの効果について論じていこうと思う。