医学のつぶやき4（るーにー）"コレステロールは下げれば下げるほどよい"

“人は血管と共に老いる”というのは William Osler と呼ばれる、医療者は知る人ぞ知るオス ラー博士の言葉だ。血管というのは年を取ると脆くなり、心筋梗塞や脳卒中と言った様々な 致死的な病気をもたらす。 逆に我々は、常にこの人の血管はどのくらい老いているのかを気にしながら診療に当たる。 例えば、20 歳の若くて細く今まで病気もしたことがない女性と 60 歳くらいでメタボ体型 のおじさんが二人とも胸が痛いと言ってきた場合は、後者の方が心筋梗塞っぽいなと思い ながらと考える。
では、どういう情報から血管が老いているかを判断するのだろうか。 まずは喫煙。最近、ニュースで「3 年前から禁煙していたのにコロナにやられた」というフ レーズを聞くが、基本的には人生で何本吸ってきたかが重要である(と教えられてきたが、 本当かはまた論文で確認しよう)。逆に、医師から「タバコ吸っていますか?」と聞かれた ら「人生で何本吸ってきたか?」というニュアンスである。 次に、血縁者で似たような病気をした人がいるか。遺伝的な要素のものも存在することが稀 にある。20 歳の若い細い女性でも、「母型の家系は皆若くして心筋梗塞です」と言われると、 話が変わってくるわけだ。 最後に、今までにしてきた病気。もちろん、昔心筋梗塞したことがあると言われたら、また なる可能性は当然低くはない。ただ、それ以外にも、高血圧、糖尿病、コレステロールとい った、あまり病気に思われていない病気というものもそこに含む(尿酸が高いはどうか微妙 なところであるので、今回は割愛した)。高血圧、糖尿病、コレステロール高値は、それを 持っているだけでは特に症状はないだろうが、年月をかけながら確実に血管を蝕んでいく。 だから、こういったものが会社で指摘されている人は、食生活の見直しや運動習慣の見直 し、かかりつけ医の作成といったことが重要になってくる。 高血圧や糖尿病というのは、当然丁度いいくらいの値を目指すのが重要である。高いと当然 血管がやられて行く、ただし低すぎると生きるのに必要な数値が足りなくて即死なんて頃 にもなりかねない。もちろん、100 歳のおばあちゃんに高血圧や糖尿病を良くしようねとは 言わない。糖尿病を良くして、小さな血管に効果が出るまで 15 年-20 年と言われているく らいだから(心筋梗塞などの大血管は他の因子が多くて不明)。とはいえ、おそらくこのブロ グを読んでいる人たちは、きっとこういったものになった時にはきちんと向き合わないと いけない年齢であるはずだ。世にはとんでも本も存在していて「下げ過ぎたらダメだよ!だ から、大丈夫!」なんて無茶苦茶なことを言っているものもある。もう一度言おう、丁度い い、が大事なのだ。 さて、ここからが本題である。ところが、コレステロールは下げれば下げるほどいいという 少し耳を疑うような論文が最近発表された。それが、”Lipid Management for the prevention of Atherosclerotic Cardiovascular Disease”(NEJM Oct 17 2019)である。色々なコレステロ ールに関係することが書かれているが、今回は 2 点に絞った。
・LDL コレステロールは下げるほど心血管イベントが減る。Lowwer is better!

・地中海食をとって、週最低 150 分の運動を! まず、予備知識としてコレステロールというのにはいくつか種類がある。LDL コレステロ ール、HDL コレステロール、中性脂肪だ。メタボの基準に入っているのは、HDL コレステ ロールと中性脂肪だ。これは、LDL コレステロールが遺伝的要因に左右されやすいという 背景がある。また、一般的用語で入れ替えると、LDL コレステロールが悪玉、HDL コレス テロールが善玉になる。我々のコレステロールが高いというのは、基本的には、LDL コレ ステロールのことを指す。 悪玉とはいえ、必要だから体に存在するはず、実際胆汁酸の構成要素なのだが、実は下げれ ば下げるほど体にいいことがわかってきた。論文の中には、LDL39mg/dL 下げるごとに、 心血管イベントが 22%減り、死亡率が 10%減ると書かれている。では、副作用はというと、 基本的にはスタチンと言われる種類の薬を使うわけだが、横紋筋融解症、糖尿病の発症、重 症肝障害といったリスクはあるが、頻度が少ないため、スタチンを飲んで下げまくったほう がいいという結論になっている。Lower is better なんてことがあっていいのか!!これは 驚きである。 ちなみに普段の生活でできることとしては地中海食が勧められている。多分、日本食はやや 塩分の点で劣っているから地中海食なのだろう。摂るべきなのは、玄米、果物、野菜、低脂 肪乳製品、鶏肉、魚、まめ、ナッツ、オリーブ油。控えるべきは赤い肉(豚と牛)、バター、 菓子。赤ワインを 1-2 杯(白ではない)。また、週 150 分の運動が勧められている。 書いていて当たり前なことが書いてある。 今日、たまたま入った店でバイトしている後輩に会って「ブログを読んでいます!」と言わ れた。なので、張り切って書いた次第なわけだ。ただ、その店が某ハンバーガーショップで あったので大変気まずいなとお腹をさすりながらこの文章を書いている。